ここでも個性は強かった

駅入口の駅名標の話だけで3ページも使ってしまいました。みなさんもだんだんと飽きが近づいてきたころでしょうから、つづいてはホーム用駅名標のお話です。まだ駅名標? いや、駅入口とホームとでは同じ駅名標でもジャンルが違いますよね。分かってくれるあなたは立派なもじ鉄ちゃんです。

 

「もじ急行」はこの記事を公開した2016年9月時点で開設4ヶ月。「えきもじの見索」シリーズも、東急京阪、名古屋市営地下鉄につづき4回目ですが、筆者の取材が容易な関東近郊の鉄道を差し置いてでも早い段階で阪神電車を取り上げたかった理由が、このホーム用駅名標にあります。

駅入口の駅名標と同じく日本語書体はロゴG、英字書体はVerdanaですが、仮名表記は新ゴになっています。そう、漢字と仮名で書体が違うという全国でも非常に珍しい駅名標なのです。こんなところにも阪神電車の個性とこだわりが垣間見えますね。尼崎駅の例では自駅の漢字表記「尼崎」がロゴG、仮名表記「あまがさき」が新ゴ、前駅と次駅の仮名表記「だいもつ」「でやしき」も新ゴということから、「尼崎」というメインの表記のみロゴG、それ以外はすべて新ゴに統一されているとも考えられますが、自駅の駅名に漢字と仮名が混ざっている場合はどうなるのでしょう。

なんと漢字はロゴG、仮名は新ゴと、ここでも使い分けられているのです。いわゆる合成フォントと呼ばれるものですね。日本語と英字の合成フォントならともかく、同じ日本語書体の中で漢字と仮名の合成フォントを使用しているサインシステムは、筆者の記憶の限り阪神電車以外では見たことがありません。制作されたデザイナーさんの書体に対する愛を感じます。では、なぜわざわざ合成フォントにしているのでしょう。制作者目線で考えるとロゴGで統一したほうが面倒くさくありません。ということで、もしも「尼崎センタープール前」がすべてロゴGで表記されていた場合を再現してみましょう。

Aは実際の駅名標と同じく、漢字がロゴG、仮名が新ゴの合成フォント。Bは漢字も仮名もすべてロゴGです。みなさんはどのような印象を受けますか。やはり公共交通機関のサインシステムという性格上、Aの合成フォントに信頼感や安定感の軍配が上がりますね。一方BはAに比べてどこか柔らかすぎると言うか、まるでバラエティ番組のテロップのような雰囲気です。例えばこんな感じでしょうか。

ロゴG独特の文字造形も手伝ってか、少し手を加えるだけで一気にバラエティ番組色が強まりましたね。とはいえ、実際のところロゴGがテレビ番組で使われている場面はほとんどなく、バラエティ番組などのテロップではロダンNTLGという書体をよく目にします。このロダンNTLGもロゴGと同じ系統の書体ですが、ロダンNTLGはロゴGに比べ、テレビ放送における使用許諾などの制限が比較的ゆるいこや、手に入りやすいこと、その他放送機材などの関係もあって多くの番組で使われているのでしょう。あくまでも推測ですが。

 

そんなバラエティ番組や子ども番組をはじめとする多くのテレビ番組のロゴデザインやテロップベースを、改編期では一週間で6番組という鬼スケジュールで制作するという限界チャレンジに挑んだことがある筆者の鉄道とはまったく関係のない豆知識と、サラリと盛り込んだ愚痴につづいては、ルビにまつわるお話です。

テレビ番組で使われている書体も気になっちゃうよね。

ルビ、つまり「ふりがな」ですね。厳密に言えば、ルビとふりがなでは意味が異なるのですが、神戸三宮駅の場合は自駅の漢字表記の上に「こうべさんのみや」と振ってある仮名のことです。実はこの仮名配置も古い手書きタイプの駅名標などを除き、ほかの鉄道会社ではほとんど見られない阪神電車特有の珍しい配置方法。多くのサインシステムでは仮名を表記する際に「こうべさんのみや」とスペースを空けることなく連続した文字がセンタリングされていますが、阪神電車は「神」の上に「こう」、「戸」の上に「べ」と、上記の写真の赤地で囲ったように、それぞれの漢字の読みに付随して仮名が振られているのです。これを専門用語では「中付き」や「字付き」などと呼びます。参考までに多くのサインシステムで見られる「普通の仮名表記」を大阪市営地下鉄御堂筋線を例に見てみましょう。

「新」に付随して「しん」、「大」に付随して「おお」ではなく「新大阪」全体に対して「しんおおさか」とセンタリングされていますね。サインシステムにおける仮名の表記方法としては上記のような配置が全国的に大半を占めています。このように合成フォントからルビにいたるまで、あらゆる箇所に阪神電車の個性とこだわりを感じる「えきもじ」ですが、特にルビに関しては駅名標の中でも最大の注目ポイントと言ってもいいでしょう。

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文・写真 _ 石川祐基 | 公開日 _ 2016.09.15

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考察内容はもじ急行の見解に基づくものであり、実際と異なる場合がございます。また記載されている情報は特記事項を除き取材当時のものであり、現状と異なる場合がございます。