筆者の京急に対する「強い気持ち・強い愛」は駅入口の駅名標からはじまります。さっそくカローラII...、ではなく電車に乗って出かけましょう。サイフがないことに気づいても「絶対フォント感」があれば、きっと楽しいもじ鉄ライフを送れるはずです。もちろん書体が分からなくても問題はありません。「調べる」というよりも「見て楽しむ」ことが重要です。そう、ダンスのようなものですね。踊り方を学ぶことも大事ですが、まずは感覚なのです。ふと、オザケンを思い出しました。まさに「ダンスフロア」です。

さて2016年現在、京急には旧タイプのサインと、2010年の羽田空港国際線ターミナル駅開業に合わせ導入された新タイプのサインが共存しており、今まさにこれまでのデザインから新しいデザインへと切り替わる過渡期にあるため、もじ鉄にとっては一度で二度おいしい路線と言ってもいいでしょう。特に旧タイプの駅名標は書体のデザインが特徴的で、鉄道好き、文字好きならずとも興味を惹かれてしまうことは間違いありません。そんなおいしい「おかず」はあとに残しておくとしまして、まず新しいタイプの駅入口の駅名標を見索です。

夏と言えばサザン、クリスマスと言えばマライア・キャリー。駅入口の駅名標は多くの鉄道会社や商業施設での採用例がもっとも多いと言っても過言ではない、「サインシステムと言えば」の王様でもある新ゴに、東京メトロや京阪、JR東日本の駅番号でも使われ、フランス・パリはシャルル・ド・ゴール空港のサインシステムのために生まれた書体、Frutigerという王道の組み合わせです。

東京メトロや京阪などは文字の太さ(ウェイト)が少し細めのMなどを使用していますが、京急は太めのB。これはJR東日本の最新型の駅名標と同じウェイトですね。ただしひとつだけ異なる点は、文字が縦に少し潰れた平体になっていること。旧タイプのデザインでも多くのサインで平体を使用していたことから、流れを受け継いでいるのでしょう。以前の「えきもじの見索」でも触れた、長体を多用している名古屋市営地下鉄とは異なるデザイン思想に、新ゴという同じ書体をひとつとってもそれぞれの処理の施し方が異なり、各鉄道会社の個性を垣間見ることができます。

京急のサインシステムは基本的にブルーがベースとなっており、赤い電車との対比が美しくもあります。これは京急のコーポレートカラーがブルーであることや、沿線の海、空と言ったものをイメージしているのでしょう。今でこそ京急と言えば羽田空港のイメージも強くなってきましたが、少し前までは「夏だ、海だ、タツローだ!」よろしく「夏だ、三浦だ、京急だ!」という海へ向かう列車のイメージが強かったものです。もう何年前のことになるかは忘れましたが、毎年夏にはキャンペーンガールも選ばれていましたね。野口五郎さんの奥さまでもある三井ゆりさんもかつては京急のキャンペーンガールでした。懐かしいです。まさに「私鉄沿線」つながり、ですね。

京急と言えば赤い電車なのに、なんでサインシステムはブルーなんだろう。というひとつの疑問から紐解かれた、かつての記憶。横浜〜都内を移動する際、東海道線一本の乗り換えなしで行ける区間をわざわざ品川まで京急に乗り換え、「めんどくさい」とブツブツ言われていた幼少期の思い出も蘇ります。

さて、つづいては旧タイプの駅入口の駅名標です。京急の「えきもじ」における一番の目玉と言ってもいいでしょう。どこか懐かしくもカッコカワイイ「あの書体」を徹底解剖します。

京急と言えばこれです。赤い電車もそうですが、もじ鉄にとってはやはりこの書体でしょう。いったいなんという名前の書体なのか。あらゆる書体見本、レタリング集を探しても見当たりません。それもそのはず、この斜体の駅名標書体は京急のオリジナルなのです。もちろん旧タイプのサインシステムは、すべてがすべてこの駅名標書体というわけではありませんが、駅の顔、鉄道の顔と言ってもいい駅入口の駅名標をオリジナルの書体で彩る「粋なお出迎え」に、きっとみなさんも電車だけではない京急の魅力に気づいてしまったことでしょう。

そしてもうひとつ注目すべき点は英字書体。こちらも王道のHelveticaではありますが、実は現在流通しているHelveticaとは少し異なります。正確には「Helvetica」ではなく「ヘルベチカ」。と言うのも、写研(旧写真植字機研究所)仕様の「ヘルベチカ」が使われているのです。ウェイトはデミ・ボールドですが、現在流通しているHelveticaにDemi Boldは存在しないため「書体当て」にはかなり難易度の高い文字と言えるでしょう。筆者も写研のヘルベチカであることには気づきませんでしたが、月刊MdNさんともじ鉄の取材を進めて行く中で、京急広報の方よりご教授いただきました。ありがとうございます。というわけで、なかなか手に入りにくい写研仕様の「ヘルベチカ デミ・ボールド」ではありますが、通常の「Helvetica Bold」ともほとんど差はありませんので、駅名標再現クラスタのみなさんはBoldを使われることをオススメします。

さぁ、そんな見所たくさんの旧タイプの駅名標ですが、ここでちょっとひと息。カラーがブルーではない特別仕様のデザインもご紹介します。

毎年春になると開催される三浦海岸の河津桜祭りに合わせ、催事中は三浦海岸駅の駅入口の駅名標もピンクの桜仕様に。基本的なフォーマットはそのままですが背景に桜の花びらが散りばめられ、デザインという点からも祭りを盛り上げてくれます。もじ鉄が趣味の人間として、もはや祭りの主役は河津桜ではなくこの駅名標と言っても過言ではなく、見事に広がる美しい桜並木を食ってしまうインパクトと斜体の駅名標書体とも相まって、背景の桜吹雪が午後の穏やかな風を彷彿とさせ思わず幸せな眠気を誘うような雰囲気に、駅名標で遊んでしまう京急の懐の大きさ。まさにキーワードは「くうねるあそぶ」。

みなさんお元気ですか?

昭和から平成へと受け継がれたこの駅名標書体を次の世代へと残してほしい気もしますが、時代の流れというものもあるのでしょう。徐々に広がる新タイプのサインの陰で、ひとつ、またひとつと消え行く旧タイプのサインに一抹の寂しさを覚えながらも、京急への愛は変わることなく存在しつづけます。

つづいては、そんな旧タイプのサインで見られる駅名標書体を分解し徹底研究します。おそらくここまで徹底的に解剖したコンテンツは今までになかったのではないでしょうか。と、自らハードルを上げた感もありますが、これもひとえに京急愛が強いがゆえの「あの子のことをなんでも知りたい」というストーカー気質たる、ある意味気持ちの悪い見索です。

春の京急沿線は見所がいっぱい。三浦海岸の河津桜(右)はもちろんのこと、鶴見川の菜の花畑(左)や田浦の梅林など、鮮やかな景色の中を駆け抜ける赤い電車が、さらなる彩りを与えてくれる。さぁ、カメラを持って出かけよう。

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